なぜ「I hurt me」ではダメなのか
「私は(自分が)けがをした」を英語で言うとき、こう書きたくなるかもしれません。
- 誤:I hurt me.
しかし、これは不自然です。正しくは、次のように言います。
- 正:I hurt myself.(私は自分自身を傷つけた=けがをした)
me ではなく、myself という形を使います。代名詞の記事で、「〜を・〜に」にあたる目的語の形は目的格(me, him, her …)だと学びました。それなのに、なぜここでは me が使えず、myself になるのでしょうか。
鍵は、主語と目的語が「同じ人」かどうかにあります。I hurt myself. では、傷つけている人(主語の I)と、傷つけられている人(目的語)が、同じ人物です。このように、動作が主語自身に向かう(跳ね返る)とき、ふつうの目的格 me ではなく、myself という専用の形を使います。これを再帰代名詞と呼びます。
この記事では、まずなぜ専用の形が必要なのか(§2)を押さえ、再帰代名詞の一覧(§3)、そして二つの使い方 ── 目的語が主語と同じとき(§4)と、強調するとき(§5)── を整理していきます。
なぜ専用の形を使うのか ― 動作が主語に「跳ね返る」
再帰代名詞が必要な理由は、主語と目的語が同じ人物だと、はっきり示すためです。
ふつうの文では、主語と目的語は別の人やものを指します。
- I like him.(私は彼が好きだ)… I(私)と him(彼)は別人
I と him は、当然ながら違う人です。目的格 him は、主語とは別の誰かを指しています。これが、目的格のふつうの使い方です。
ところが、動作が主語自身に向かう場合 ── たとえば「自分を傷つける」「自分を見る」── では、目的語が主語と同じ人になります。このとき、もしふつうの目的格を使うと、おかしなことになります。
- I hurt me. … この me は「(主語とは別の)私」を指すように聞こえてしまう
目的格 me は本来「主語とは別の誰か」を指す形なので、主語と同じ人を指すのには向きません。「私が、私を傷つけた」と言いたいのに、me だと「私が、(別の)私を?」と、ちぐはぐな感じになってしまうのです。
そこで英語は、「これは主語と同じ人ですよ」とはっきり示す専用の形を用意しました。それが myself です。
- I hurt myself.(私が、その私自身を傷つけた)… myself = 主語と同じ「私」
myself という形が「主語と同じ人」という目印になるので、誤解なく「自分自身」を指せます。動作が主語に跳ね返ってくる ── その「跳ね返り」を表すのが、再帰代名詞の役目なのです。
なるほどコラム:reflexive は「跳ね返る」という意味 再帰代名詞は、英語で reflexive pronoun といいます。この reflexive は、reflect(跳ね返る・反射する)と同じ語からできた言葉です。reflect は、鏡に光が当たって跳ね返る、あの「反射」を表す動詞でもあります(reflection は「鏡像・反射」)。再帰代名詞のイメージは、まさにこれです。主語が起こした動作が、鏡に跳ね返るように主語自身へ戻ってくる ── その「跳ね返り」を示すのが reflexive、つまり再帰代名詞なのです。語尾の -self は「自身」を表し、myself なら「私自身」となります。
再帰代名詞の一覧
再帰代名詞は、人称代名詞に -self(複数は -selves) を付けた形です。「〜自身」を表します。
| 単数 | 複数 | |
|---|---|---|
| 一人称(私) | myself | ourselves |
| 二人称(あなた) | yourself | yourselves |
| 三人称(彼) | himself | themselves |
| 三人称(彼女) | herself | themselves |
| 三人称(それ) | itself | themselves |
単数は -self、複数は -selves で終わります。「私たち自身」なら ourselves、「彼ら自身」なら themselves のように、複数の人・ものを指すときは -selves です。
ここで、つづりについて一つ注意があります。再帰代名詞は、もとになる代名詞の形が、語によって少し違います。
- myself, yourself, ourselves … 所有格(my, your, our)+ self
- himself, themselves … 目的格(him, them)+ self
myself は my(所有格)+ self ですが、himself は his(所有格)ではなく、him(目的格)+ self です。この違いから、よくある誤りが生まれます。
誤:hisself(his + self としてしまう)
正:himself(him + self)
誤:theirselves(their + selves としてしまう)
正:themselves(them + selves)
himself や themselves は、所有格(his, their)ではなく目的格(him, them)から作る、と覚えておきましょう。なぜ語によってもとの形が違うのかは歴史的な事情によるもので、深く気にする必要はありません。「himself・themselves は目的格ベース」とだけ押さえれば十分です。
使い方1 ― 目的語が主語と同じとき(必須の用法)
再帰代名詞のいちばん基本的な使い方は、§2 で見た「動作が主語自身に向かう」場合です。目的語が主語と同じ人になるとき、再帰代名詞を使います。
- She looked at herself in the mirror.(彼女は鏡で自分を見た)
- I taught myself English.(私は独学で英語を学んだ=自分に英語を教えた)
- He introduced himself.(彼は自己紹介をした=自分自身を紹介した)
それぞれ、動作の対象(見る・教える・紹介する相手)が、主語と同じ人物です。「彼女が見たのは彼女自身」「私が教えた相手は私自身」── だから再帰代名詞を使います。
前置詞の後ろでも、その対象が主語と同じなら再帰代名詞になります。
- She looked at herself.(前置詞 at の後ろ、主語 she と同じ)
- He was talking to himself.(彼は独り言を言っていた=自分に話しかけていた)
この「目的語が主語と同じとき」の用法は、省くことができません。文の意味に必要な要素だからです。
- He introduced himself. から himself を取ると → He introduced. … 「彼は紹介した」となり、「誰を?」が抜けて意味が不完全になる
himself があって初めて「自己紹介した」という意味が完成します。このように、再帰代名詞が文の必須の要素になっているのが、この用法です。次の §5 で見る「強調の用法」とは、この「省けるかどうか」で区別できます。
なお、enjoy oneself(楽しむ)のように、再帰代名詞とセットで決まった意味を表す言い方もあります。
- Enjoy yourself!(楽しんでね=あなた自身を楽しませて)
これは慣用的な表現で、enjoy が再帰代名詞をともなって「楽しむ」を表します。こうした言い回しは、ひとまとまりの表現として覚えておくとよいでしょう。
使い方2 ― 「自分で・〜自身」の強調
再帰代名詞には、もう一つの使い方があります。「自分で」「〜自身が」と、強調するための用法です。
- I did it myself.(私は自分でそれをやった)
- The teacher herself admitted the mistake.(先生自身が間違いを認めた)
これらの myself や herself は、「ほかの誰でもなく、自分で・その人自身が」という強調を加えています。I did it myself. なら、「(人に頼まず)自分でやった」というニュアンスです。
この強調用法は、§4 の必須用法と違って、取り除いても文が成り立ちます。
- I did it myself. → I did it.(私はそれをやった)… myself を取っても文は成立する
- The teacher herself admitted it. → The teacher admitted it.(先生はそれを認めた)… herself を取っても成立する
myself や herself を取り除いても、「やった」「認めた」という文の骨組みは残ります。強調のために足されているだけなので、なくても文は壊れないのです。
二つの用法の違いを、整理しておきましょう。
| 用法 | 役割 | 取り除くと | 例文 |
|---|---|---|---|
| 必須用法(§4) | 目的語などとして必要 | 文が壊れる | He introduced himself. |
| 強調用法(§5) | 「自分で」と強調するだけ | 文は成立する | He did it himself. |
見分け方は、「その再帰代名詞を取り除いても文が成り立つか」です。成り立つなら強調用法、成り立たないなら必須用法、と判断できます。
なお、再帰代名詞を使った決まり文句に、by oneself(一人で・独力で)があります。
- I went there by myself.(私は一人でそこへ行った)
- She finished it by herself.(彼女はそれを独力で仕上げた)
by myself は「一人で」「自分の力で」という意味でよく使われる表現です。これも、ひとまとまりの言い方として覚えておくと便利です。
つまずきポイント
再帰代名詞で間違えやすい点を整理します。
つまずき1:主語と同じ人なのに目的格を使う
動作が主語自身に向かうのに、ふつうの目的格(me, him …)を使ってしまう誤りです。
- 誤:I hurt me. / He calls him every morning.(him が別人になってしまう)
- 正:I hurt myself. / He looked at himself.
§2 のとおり、目的語が主語と同じ人なら、再帰代名詞を使います。目的格 me / him のままだと、主語とは別の人を指すことになってしまいます。
つまずき2:hisself / theirselves と書く
§3 で見た、もとの形を間違える誤りです。
- 誤:hisself / theirselves
- 正:himself / themselves
himself・themselves は、所有格(his, their)ではなく目的格(him, them)から作ります。hisself・theirselves という形は存在しません。
つまずき3:単数と複数を取り違える
-self(単数)と -selves(複数)を混同する誤りです。
- 誤:We enjoyed ourself. / They blamed themself.
- 正:We enjoyed ourselves. / They blamed themselves.
主語が複数(we, they)なら、再帰代名詞も複数形の -selves にします。ourselves、themselves のように、-self ではなく -selves です。
つまずき4:強調用法を必須だと思い込む
「自分で」と強調する myself を、必ず必要なものだと思ってしまう誤りです。実際には、強調用法は省いても文が成り立ちます。
- I cleaned the room myself.(自分で掃除した)と I cleaned the room.(掃除した)は、どちらも正しい文
§5 のとおり、強調用法は「自分で」というニュアンスを足すためのもので、なくても文は成立します。必須用法(取り除くと壊れる)との違いを意識しましょう。
まとめ早見表
再帰代名詞の形と使い方を整理します。
| 単数(-self) | 複数(-selves) | |
|---|---|---|
| 一人称 | myself | ourselves |
| 二人称 | yourself | yourselves |
| 三人称(男) | himself | themselves |
| 三人称(女) | herself | themselves |
| 三人称(物) | itself | themselves |
使い方は、二つあります。
| 用法 | 意味 | 取り除くと | 例文 |
|---|---|---|---|
| 必須用法 | 主語自身が動作の対象 | 文が壊れる | I taught myself. |
| 強調用法 | 「自分で・〜自身」と強調 | 文は成立する | I did it myself. |
形と使い方を選ぶときは、こう考えます。
- 動作が主語自身に向かうか?(目的語が主語と同じ人か?)→ そうなら再帰代名詞(目的格 me ではなく myself)。
- 「自分で」と強調したいだけか? → 強調用法。取り除いても文は成り立つ。
- 形は、主語の人称・数に合わせる。 単数は -self、複数は -selves。himself・themselves は目的格ベース。
再帰代名詞は、「-self を付ける」と機械的に覚えるものではありません。根っこにあるのは、動作が主語自身に跳ね返るとき、ふつうの目的格では「別人の私」と紛れてしまうので、「主語と同じ人」だと示す専用の形を使う、という考え方です。代名詞で見た目的格(me)と、この myself の違いを、「跳ね返るかどうか」で捉えておきましょう。
次に読むとよい記事
再帰代名詞は、人称代名詞(とくに目的格)の知識が土台になっていました。関連するテーマを合わせて確認しておきましょう。
- 代名詞 I・my・me ― 主格・所有格・目的格という、再帰代名詞の土台になる人称代名詞
- 文の要素 ― 主語(S)・目的語(O)という、再帰代名詞が関わる役割
なお、this / that のように「これ・あれ」と距離で指し分ける代名詞(指示代名詞)も、代名詞の仲間です。こちらは別の記事で、近いものを指す this、遠いものを指す that の使い分けとして、あらためて扱う予定です。