授与動詞と第4文型 ― 「与える」と「奪う」、二方向の移動

第4文型(SVOO)の授与動詞を「主語から相手への移動」として理解する。give のような与える動詞だけでなく、cost や take のような奪う動詞まで、二方向の移動という視点で reasoning-first に整理します。

第4文型は「移動」を表す型

基本的な文型の記事で、第4文型(S V O O)を学びました。目的語を二つとり、「S が(人)に(物)を与える」という意味を表す型です。

  • I gave him a book.(私は彼に本をあげた)

このとき、二つの目的語 him(人)と a book(物)は別物でした(O ≠ O)。この骨格の話は、ハブ記事ですでに押さえたとおりです。

この記事では、第4文型を一歩深く掘り下げます。鍵になるのは、第4文型がもともと表している意味 ── 「何かが、ある人から別の人へ移動する」 という捉え方です。

  • I gave him a book. … 本(a book)が、私(I)から彼(him)へ移動する

give(与える)は、まさに「物が相手へ移動する」動作です。第4文型をとる動詞 ── これを授与動詞と呼びます ── は、この「移動」を起こす動詞だと考えると、その全体像がすっきり見えてきます。

そして、ここがこの記事のいちばんの面白さなのですが、この「移動」には二つの方向があります。

  • 与える方向:相手に何かが渡る(give, tell, send, buy…)
  • 奪う方向:相手から何かが差し引かれる(cost, take, save…)

「第4文型=与える型」と思われがちですが、実は「奪う・差し引く」方向の授与動詞も存在します。この二方向の移動という視点で、授与動詞をまるごと捉え直すのがこの記事のねらいです。

なお、第4文型を第3文型に書き換える操作(I gave a book to him. / I bought a book for her.)と、その to / for の使い分けは、to と for の使い分けの記事の担当です。本記事は「授与動詞の意味の広がり」に集中し、書き換えの詳細はそちらにゆずります。

なぜ「人 → 物」の順なのか

第4文型では、二つの目的語が必ず「人(受け手)→ 物(移動するもの)」の順に並びます。

  • I gave him(人)a book(物).
  • 誤:I gave a book him.(この順では成り立たない)

なぜこの順番なのでしょうか。これも「移動」という捉え方から自然に説明できます。

何かを誰かに渡す場面を思い浮かべてみてください。渡すという行為が成立するには、まず**「誰に渡すのか」という受け手が定まっている必要があります。受け手が決まって初めて、「では何を渡すのか」という移動する物**が意味を持ちます。第4文型の語順は、この「まず受け手、次に移動物」という移動のストーリーを、そのまま語順に反映しているのです。

  • I gave [him](まず受け手が定まる)[a book](次に渡す物が来る)

興味深いことに、これは日本語の語順とも一致します。「私は彼に(人)本を(物)あげた」 ── 日本語でも「彼に」が先、「本を」が後です。受け手を先に立てるという発想は、言語を越えて共通する自然な順序だと言えます。

なるほどコラム:「授与動詞」を表す ditransitive という言葉 授与動詞は英語で ditransitive verb といいます。これは di-(二つの)と transitive(他動詞)を組み合わせた言葉で、「目的語を二つとる他動詞」という意味です。自動詞・他動詞の記事で、他動詞(transitive)とは「動作が主語から目的語へと越えて伝わる」動詞だと見ました。授与動詞は、その伝わる先が二つある ── 受け手(人)と移動物(物)の両方に動作が及ぶ ── 動詞だと捉えると、用語の成り立ちと「移動」のイメージがぴたりと重なります。

与える方向の授与動詞

まず、第4文型の代表である与える方向の授与動詞です。これらはすべて「S から相手へ、何かが移動する」という共通のイメージを持ちます。ただし「何が移動するか」によって、いくつかのグループに分けられます。

グループ移動するもの代表的な動詞例文
物を渡す物そのものgive, send, pass, hand, lendShe handed me the key.
情報を渡す言葉・知識tell, show, teach, askHe taught us math.
作って渡す作り出したものmake, buy, cook, getI made her a cake.

どのグループも、根っこは同じ「移動」です。

  • give:物が手から手へ移動する
  • tell:情報が話し手から聞き手へ移動する
  • make:作ったものが作り手から相手へ移動する

たとえば teach(教える)は、一見「渡す」とは違う動作に見えますが、「知識という目に見えないものが、先生から生徒へ移動する」と捉えれば、give とまったく同じ構造です。第4文型の授与動詞は、物理的な物だけでなく、情報や、作り出したものまで、**さまざまな「移動するもの」**を相手に届ける動詞なのです。

  • I told him the truth.(真実という情報が、私から彼へ移動した)
  • She bought me a coffee.(買って手に入れたコーヒーが、彼女から私へ移動した)

このように「何が移動しているか」を意識すると、バラバラに見える授与動詞が、一つのイメージでつながります。

奪う方向の授与動詞 ― 第4文型のもう一つの顔

ここからが、この記事のいちばん大事なところです。第4文型は「与える型」と思われがちですが、実は**逆向きの移動 ── 相手から何かが差し引かれる「奪う方向」**の授与動詞も存在します。

代表的なものを見てみましょう。

  • It cost me ten dollars.(それは私に10ドルかかった)
  • The work took me an hour.(その仕事は私に1時間かかった)
  • That saved me a lot of trouble.(それは私の手間を大いに省いてくれた)

これらはどれも第4文型(S V O O)の形をしています。cost me ten dollars なら、me(人)と ten dollars(物・お金)の二つの目的語が並んでいます。ところが意味をよく見ると、与える方向とは逆です。

  • It cost me ten dollars. … 10ドルが、私から出ていく(差し引かれる)

give が「相手に渡る」なら、cost は「相手から出ていく」。移動の向きがちょうど逆なのです。take(時間や労力を奪う)、save / spare(手間や苦労を取り除く)も同じ仲間で、いずれも「O(人)から何かが差し引かれる」という方向の移動を表します。

与える方向と奪う方向を、鏡像として並べてみましょう。

方向イメージ動詞例文
与えるS → 相手(渡る)give, send, tell, buyI gave him a book.(本が彼へ渡る)
奪う・差し引く相手 → 外(出ていく)cost, take, save, spareIt cost him a book.(本の代金が彼から出ていく)

第4文型を「与える型」とだけ覚えていると、cost や take が同じ第4文型だと気づきにくく、「なぜ目的語が二つ?」と混乱しがちです。しかし「第4文型=移動の型で、移動には与える・奪うの二方向がある」と捉えておけば、これらもすんなり同じ仲間として理解できます。

なお、この「奪う方向」の動詞は、与える方向の動詞のように to / for を使って第3文型へ書き換えることが、基本的にできません。

  • 誤:It cost ten dollars to me.
  • 正:It cost me ten dollars.(書き換えず、第4文型のまま使う)

これは、to(到達)や for(利益)が「相手に向かって渡す」イメージの前置詞であり、「相手から差し引く」という逆向きの移動になじまないからです。書き換えのくわしい仕組みはto と for の使い分けの記事で扱っていますが、ここでは「奪う方向の動詞は書き換えられない」とだけ押さえておけば十分です。

第4文型の見分け ― 第3・第5文型との違い

第4文型は、目的語の数や、目的語どうしの関係をめぐって、第3文型・第5文型と混同されることがあります。それぞれとの違いを整理しておきましょう。

第3文型との違い ― 目的語が一つで足りるか

第3文型(S V O)は目的語が一つ、第4文型(S V O O)は二つです。見分けの鍵は、その動詞が目的語を一つで満足するか、二つ目を求めるかにあります。

  • I gave him.(彼に与えた ── 何を? と続きを求められる)
  • I gave him a book.(彼に本を与えた ── 二つ目で完成する)

give のような授与動詞は、「移動するもの(物)」と「受け手(人)」の両方がそろって初めて、移動という意味が完成します。だから目的語を二つ呼び込みます。一方、第3文型の他動詞(例:I read a book.)は、対象が一つあれば完結します。

この「動詞がいくつ目的語を呼び込むか」という発想は、基本的な文型自動詞・他動詞で見た「動詞が要素を呼び込む」という考え方の延長です。

第5文型との違い ― O ≠ O か、O = C か

もっとも紛らわしいのが、第5文型(S V O C)との違いです。どちらも「S V + 名詞 + 名詞」の形になりうるからです。決め手は、後ろの二つの関係です。

文型並び後ろ二つの関係例文
第4文型S V O OO ≠ O(別物)I gave him a book.(彼 ≠ 本)
第5文型S V O CO = C(イコール)We call him a hero.(彼 = 英雄)

I gave him a book. では、him(彼)と a book(本)は別物です(O ≠ O)。本が彼へ移動する、という第4文型の「移動」が成り立っています。

一方 We call him a hero. では、him(彼)と a hero(英雄)は同一人物です(him = a hero)。何かが移動しているのではなく、「彼=英雄」というイコールの関係を述べています。これは移動の型ではなく、使役動詞知覚動詞で見た第5文型(O = C)の仲間です。

見分け方はシンプルです。後ろの二つがイコールで結べるかを問えばよいのです。

  • him = a book? → 成り立たない → O ≠ O → 第4文型(移動)
  • him = a hero? → 成り立つ → O = C → 第5文型(イコール)

「移動(第4)か、イコール(第5)か」 ── この一点で、紛らわしい二つの文型を確実に切り分けられます。

つまずきポイント

第4文型で間違えやすい点を整理します。

つまずき1:奪う方向の動詞を書き換えようとする

cost や take を、give と同じ感覚で to / for を使って書き換えてしまう誤りです。

  • 誤:It cost ten dollars to me.
  • 正:It cost me ten dollars.(書き換えず、第4文型のまま使う)

§4 で見たとおり、cost / take などは「奪う方向」の移動なので、「渡す」イメージの to / for にはなじみません。第4文型のまま使うのが基本です。

つまずき2:第4文型と第5文型を取り違える

「S V + 名詞 + 名詞」を見たとき、つねに第4文型だと思い込む誤りです。

  • 誤:They made him a leader. を「彼にリーダーを作ってあげた」と第4文型で読む
  • 正:him = a leader(彼 = リーダー)なので第5文型。「彼をリーダーにした」

§5 のとおり、後ろの二つが別物なら第4文型、イコールなら第5文型です。なお made は「彼にケーキを作ってあげた(made him a cake = 第4)」と「彼をリーダーにした(made him a leader = 第5)」の両方をとり、文によって変わります。

つまずき3:buy / make を to で書き換える

与える方向の動詞でも、buy / make は to ではなく for をとります。

  • 誤:I bought a present to her.
  • 正:I bought a present for her.

buy / make は「自分だけでも完結する動作」なので for を使います。この to / for の使い分けはto と for の使い分けの記事でくわしく扱っています。

つまずき4:「人 → 物」の順を逆にする

第4文型の語順を、「物 → 人」と逆にしてしまう誤りです。

  • 誤:I gave a book him.
  • 正:I gave him a book.(人 → 物の順)

§2 で見たとおり、第4文型は「まず受け手(人)、次に移動物(物)」の順です。物を先に言いたい場合は、第3文型に書き換えて I gave a book to him. とします(このとき人の前に前置詞が必要)。

まとめ早見表

第4文型(授与動詞)を、二方向の移動という視点で整理します。

方向イメージ代表的な動詞例文
与える(物)S → 相手に物が渡るgive, send, pass, hand, lendShe handed me the key.
与える(情報)S → 相手に言葉・知識が渡るtell, show, teach, askHe taught us math.
与える(作って)S → 相手に作ったものが渡るmake, buy, cook, getI made her a cake.
奪う・差し引く相手から外へ出ていくcost, take, save, spareIt cost me ten dollars.

文型の見分けは、次の手順です。

  1. 動詞のあとに名詞が二つあるか。一つなら第3文型。
  2. 二つあるなら、その二つがイコールで結べるかを問う。
    • 結べない(O ≠ O)→ 第4文型(移動)
    • 結べる(O = C)→ 第5文型(イコール)
  3. 第4文型なら、移動の向きを見る。相手へ渡る(与える)か、相手から出ていく(奪う)か。

第4文型は、ただ「目的語を二つとる型」ではありません。その本質は「S から相手へ、何かが移動する」ことにあり、その移動には与える・奪うの二方向があります。give も cost も、向きこそ逆ですが、同じ「移動の型」の仲間です。基本的な文型で立てた「動詞が文型を決める」という考え方は、ここでも一貫しています。動詞がどんな移動を起こすかが、第4文型という形を呼び込んでいるのです。

次に読むとよい記事

第4文型の授与動詞は、第5文型と並んで「目的語まわり」を深掘りするテーマでした。関連する記事を合わせて確認しておきましょう。