指示代名詞 this と that ― 近いか遠いか、距離で指し分ける

指示代名詞 this / that / these / those を「話し手からの距離」で理解する。物理的な距離だけでなく、時間的・心理的な近さ遠さにも一貫して効く感覚を reasoning-first で整理します。

this と that は「距離」で決まる

「これは私のかばんだ」「あれは何ですか」のように、ものを指し示すとき、英語では thisthat を使います。これらを指示代名詞と呼びます。

  • This is my bag.(これは私のかばんだ)
  • That is a hospital.(あれは病院だ)

代名詞の記事で見た人称代名詞(I / you / he …)が「人」を指すのに対して、指示代名詞は「これ・あれ」と、その場のものを指さすように示します。

this と that は、多くの場合「これ=this、あれ=that」と訳で覚えられます。しかし、この訳の丸暗記だと、「それ」をどちらにするか迷ったり、時間や気持ちを表す使い方が出てきたときに対応できなかったりします。

this と that の本当の違いは、たった一つ ── 話し手からの距離です。話し手に近いものが this、遠いものが that。この「近いか遠いか」という感覚さえつかめば、指示代名詞は迷わず使えるようになります。

この記事では、まず距離という基準(§2)を押さえ、this / that / these / those の全体像(§3)、距離の感覚が物理・時間・心理に広がること(§4)、そして単独・名詞付きの使い方(§5)を整理していきます。

なぜ this と that に分かれるのか ― 話し手を中心にした「近い・遠い」

指示代名詞の根っこにあるのは、**話し手の位置を基準にした「近い・遠い」**という感覚です。

  • this … 話し手の近くにあるもの(手元・すぐそば)
  • that … 話し手から離れたところにあるもの(向こう・遠く)

話し手が手に持っているペンなら this pen、部屋の向こうにある時計なら that clock、というように、話し手の位置からの距離で this と that を選びます。英語は、話し手を中心に世界を「近い」と「遠い」の二つに分けて、指し示しているのです。

ここで、日本語との違いに触れておきましょう。日本語には「これ・それ・あれ」という三つの指示語があります。

  • これ … 話し手の近く
  • それ … 聞き手の近く
  • あれ … 話し手からも聞き手からも遠い

日本語は「話し手の近く(これ)」「聞き手の近く(それ)」「どちらからも遠い(あれ)」という三段階で指し分けます。ところが英語は、話し手を基準にした this(近い)/that(遠い)の二段階だけです。聞き手の近くにあるものも、話し手から離れていれば that になります。

日本語英語
話し手の近くこれthis
聞き手の近くそれthat(話し手から離れていれば)
どちらからも遠いあれthat

この違いがあるため、日本語の「それ」は、英語では this になることも that になることもあります。「それ」を機械的に that と置きかえるのではなく、「話し手から近いか、遠いか」で考えるのが正解です。

なるほどコラム:英語はなぜ二段階なのか 日本語の「こ・そ・あ」(これ・それ・あれ)が三段階なのに対し、英語の this / that が二段階なのは、両者が世界の分け方を変えているからです。日本語は「話し手」と「聞き手」の二つの中心を立て、それぞれの近くを「これ」「それ」と区別します。一方、英語は「話し手」という一つの中心だけを立て、そこから近いか(this)遠いか(that)で世界をまっぷたつに分けます。聞き手の存在を指示語の基準に組み込まない、というのが英語の発想です。だから、聞き手のすぐそばにあるものでも、話し手から離れていれば that になります。「自分(話し手)から見て近いか遠いか」── これが英語の指示代名詞の一貫した基準です。

this / that / these / those の一覧

指示代名詞は、「距離(近い・遠い)」と「数(単数・複数)」の組み合わせで、4つの形があります。

単数(一つ)複数(二つ以上)
近い(this 系)this(これ)these(これら)
遠い(that 系)that(あれ)those(あれら)
  • this(近い・単数):This is my pen.(これは私のペンだ)
  • these(近い・複数):These are my books.(これらは私の本だ)
  • that(遠い・単数):That is his car.(あれは彼の車だ)
  • those(遠い・複数):Those are mountains.(あれらは山だ)

縦の軸が「距離」、横の軸が「数」です。近いものが一つなら this、近いものが複数なら these。遠いものが一つなら that、遠いものが複数なら those。§2 で見た「近い・遠い」に、「一つ・複数」が掛け合わさっているだけです。

複数形のつづりにも、規則があります。this の複数は these、that の複数は those。どちらも形が大きく変わるので、セットで覚えておきましょう(this → these、that → those)。

距離の感覚の広がり ― 物理・時間・心理

ここまでは、目に見えるものの「物理的な距離」で this / that を見てきました。しかし、この「近い・遠い」という感覚は、もっと広い場面で働きます。時間の近さ遠さ、そして**気持ち(心理)**の近さ遠さにも、同じ this / that が使われるのです。

物理的な距離

まずは基本の、空間的な距離です。

  • This book is interesting.(この(手元の)本はおもしろい)… 近い
  • Look at that building.(あの(向こうの)建物を見て)… 遠い

時間的な距離

時間にも、「近い・遠い」があります。今に近い時は this、今から離れた時(過去や、話題の中の遠い時点)は that で表します。

  • this week(今週)、this morning(今朝)… 今に近い
  • in those days(あのころ)、that day(あの日)… 今から離れた過去

「今・近い」を this、「あのころ・遠い」を that で指す ── 空間の「近い・遠い」が、そのまま時間にも当てはまっています。

心理的な距離

さらに、気持ちのうえでの「近さ・遠さ」にも this / that が使われます。関心が向いている・今の話題に近いものは this、突き放したい・距離を置きたいものは that で表すことがあります。

  • This is exciting!(これはわくわくする!)… 今の関心事=心理的に近い
  • I don’t like that.(あれは好きじゃない)… 突き放す=心理的に遠い

会話で、相手の発言を That’s right.(その通り)と受けるときの that も、この仲間です。いま話に出た内容を、少し離れたものとして that で指しています。

このように、this / that の「近い・遠い」は、空間だけにとどまりません。

距離の種類近い(this / these)遠い(that / those)
空間this pen(手元)that building(向こう)
時間this week(今週)those days(あのころ)
心理This is great.(関心が近い)I don’t like that.(突き放す)

一つの「近い・遠い」という感覚が、空間・時間・心理のすべてに共通して効いている ── これが、this / that を訳の暗記ではなく距離で捉えることの強みです。「話し手から近いか、遠いか」さえ意識すれば、どの場面でも迷わず使い分けられます。

使い方 ― 単独で使う・名詞の前に付く

指示代名詞には、二つの使い方があります。単独で使う場合と、名詞の前に付く場合です。

単独で使う ― 名詞の代わりになる

一つめは、this / that が単独で、名詞の代わりとして主語などになる使い方です。これが「指示代名詞」の本来の姿です。

  • This is my bag.(これは私のかばんだ)
  • That is too expensive.(あれは高すぎる)
  • These are delicious.(これらはおいしい)

this や that が、それ自体で「これ」「あれ」という一つの名詞のように働いています。

名詞の前に付く ― 「この〜・あの〜」

二つめは、this / that を名詞の前に置いて、「この〜」「あの〜」と、どの名詞かを指し示す使い方です。

  • this book(この本)
  • that car(あの車)
  • these flowers(これらの花)

this book なら「(手元の)この本」、that car なら「(向こうの)あの車」と、後ろの名詞を「近い・遠い」で限定しています。

ここで、冠詞で学んだ a / the を思い出してください。a / the も、名詞の前に置いて、その名詞がどういうものかを示す語でした。実は、this / that は、a / the と同じ「名詞の前の枠」に入ります

  • a book(ある一冊の本)
  • the book(その特定の本)
  • this book(この本)
  • that book(あの本)

どれも「名詞の前に置いて、その名詞を示す」という同じ位置にあります。そして、この枠には一つしか入れません。だから、a / the と this / that を重ねて使うことはできません。

  • 誤:the this book / a that car
  • 正:this book / that car

「この本」と言いたいとき、the this book とはならず、this book だけで足ります。this 自体が「(特定の)この」と示しているので、the は要らないのです。a / the / this / that は、名詞の前の同じ場所をめぐる仲間どうしで、同時には使えない ── こう捉えておきましょう。

会話の流れを指す that

なお、that には、前に出てきた話の内容を指す使い方もあります。

  • “I passed the exam.” “That’s great!"(「試験に受かった」「それはすごい!」)

この that’s(that is)は、相手がいま言ったこと(試験に受かった、という内容)を、少し離れたものとして that で受けています。会話で出たばかりの内容を指すときの定番の形です。

つまずきポイント

指示代名詞で間違えやすい点を整理します。

つまずき1:単数と複数を取り違える

近い・遠いは合っていても、数を間違えるパターンです。

  • 誤:this books / that cars
  • 正:these books / those cars

指すものが複数なら、this → these、that → those にします。後ろの名詞が複数形(books, cars)のときは、指示代名詞も複数形です。

つまずき2:a / the と this / that を重ねる

§5 で見たとおり、名詞の前の枠は一つだけです。

  • 誤:I bought the this book.
  • 正:I bought this book.(this だけでよい)

this / that は、それ自体で名詞を特定するので、a / the と一緒には使いません。

つまずき3:日本語の「それ」を機械的に that にする

§2 で見たとおり、日本語の「それ」は、英語では this にも that にもなります。

  • 聞き手の近くにあっても、話し手から離れていれば that
  • 話し手の手元に引き寄せて言うなら this

「それ=that」と機械的に置きかえず、「話し手から近いか遠いか」で判断しましょう。

つまずき4:it と this / that を混同する

「それ」を表す語に it もありますが、it と this / that は働きが違います。

  • it … すでに話に出たものを、ただ受けるだけ(指し示さない・距離の感覚なし)
  • this / that … 実際に「これ・あれ」と指し示す(距離の感覚あり)

たとえば、I bought a pen. It is blue.(ペンを買った。それは青い)の it は、前に出た a pen を受けているだけで、「近い・遠い」を表していません。一方、this / that は、話し手からの距離をもって「これ・あれ」と指し示します。

  • I bought a pen. It is nice.(前に出た pen をただ受ける)
  • This is nice.(手元のものを「これ」と指し示す)

「すでに出たものを受けるだけ」なら it、「距離をもって指し示す」なら this / that、と使い分けます。

まとめ早見表

指示代名詞は、「距離(近い・遠い)」と「数(単数・複数)」で4つの形に決まります。

単数複数
近い(話し手のそば)thisthese
遠い(話し手から離れて)thatthose

そして、この「近い・遠い」は、空間だけでなく時間・心理にも共通して効きます。

距離の種類近い(this / these)遠い(that / those)
空間this pen(手元)that building(向こう)
時間this week(今週)those days(あのころ)
心理This is great.(関心が近い)I don’t like that.(突き放す)

使うときは、次のように考えます。

  1. 話し手から近いか、遠いか? → 近い:this 系/遠い:that 系
  2. 指すものは一つか、複数か? → 単数:this / that/複数:these / those
  3. 名詞の前に付けるなら、a / the とは重ねない(this book であって the this book ではない)。

指示代名詞は、「これ・それ・あれ」と訳で丸暗記するものではありません。根っこにあるのは、**話し手を中心にした「近い・遠い」**という、たった一つの感覚です。日本語が「これ・それ・あれ」と三段階で、しかも話し手と聞き手の二つを基準にするのに対し、英語は「話し手から近いか遠いか」の二段階だけ。この一点をつかめば、空間でも、時間でも、気持ちのうえでも、this と that を迷わず選べるようになります。

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